本図は本像を荘厳する瓔珞の一部分を捉えた画像である。本書に掲載したカラー画像は、絵画表現の凹凸を観察できるように配慮した照明法を用いているため、図版15においても微細な粒子の色彩が記録されている。やや青みを帯びた黒色部は、目視の観察では光の反射角度によって銀を思わせる光沢を呈する。
図版95の画像においてもこれに近似する見えを示すが、しかし色彩を感じる要因としては青い粒子が微量に認知できる程度である。実際、蛍光X線分析の結果を参照すると、同様の見えを示す他の珠玉からもAgは検出されていない。
図版15で見られる瓔珞のうち、4~5mmの珠玉の濃赤色の輪郭部分が図版16では黒色の線(原子量が大きな材質であることを示している)として記録されている。その珠玉の周辺には、やはりほぼ同じ濃赤色に見える色で輪郭された2~3mmの珠玉が多く見られるが、図版16において4~5mmの珠玉と比較すると、画像濃度が一様に低く濃灰色に止まっている。
図版91、92を参照すると、赤い色彩が均一に施されていないことは理解できるが、この画像濃度の違いは、単純に塗り重ねによる色料の厚みの違いにのみ起因するものとは判断しがたい。このことは、目視では同じ赤色に見える色料が、実際には材質的に異なる可能性があることを示唆している。
金色の部分についても赤色と同様に同一色の部位において画像濃度が変化を示しているが、本像の金色の彩色は本図に限らず蛍光X線分析で検出されているAuの検出量と画像濃度の変化は一致していない。金色の彩色部は多くの情報に基づいて、彩色技法の解釈や素材の評価を慎重に行うべきである。図版17、18では、図版15や目視観察でも見られる絹継や瓔珞の不鮮明な形状を明確に捉えている。図版18では、微量に残された彩色材料によって起こる照射光の吸収反応と基底材から発せられた蛍光反応によって、剥落や劣化して目視では観察できない珠玉の形状や珠玉を通す糸の表現までが、画像の濃淡として明瞭に視覚化されている。